
シンナーは、塗装工事とは切っても切り離せないアイテムのひとつです。
しかし塗装工事を検討されている方の中には、シンナーを使用することに心配を覚える方もいるのではないでしょうか。
「シンナーは身体に悪影響があるの?」
「シンナーの臭いが苦手なんだけど、対策法はあるの?」
こんな不安をお持ちの方はぜひご一読ください。
目次
1.シンナーとは
シンナーとは、英語で薄めるという「Thin」から来ており文字通り薄めるための溶剤です。
溶剤系(油性)の塗料を「溶かして薄める」ことで塗装をしやすくしたり、塗料で汚してしまった箇所の洗浄を行ったりするのに使用します。
1-1.シンナーの種類
塗装工事で使用するシンナーは
1:塗料を薄めるための「塗料用シンナー」
2:塗料で汚してしまったり、塗料が乾燥しかけてカスのようになったものを洗浄する「洗浄用シンナー」
3:塗料に使われている樹脂に応じて成分を変えている「その他合成樹脂シンナー」
の主に3種類があります。
1-2.塗装工事におけるシンナーの必要性
①塗料の溶媒

塗料の成分は、以下の4つに分けられます。
・乾燥後の塗膜の主成分となる「樹脂」
・塗料に色を付ける「顔料」
・塗料にさまざまな機能を付与する「添加剤」
・樹脂・顔料・添加剤を均一に混合し、塗装の作業性を上げるための「溶媒」
溶剤系塗料では、このうちの4つめ「溶媒」として、シンナーが使われています。
水性塗料では「溶媒」に水を使用していて、溶剤系塗料のようなきつい臭いはありませんが
溶剤系塗料よりも乾燥時間が長くなりやすいというデメリットがあります。
②塗料の乾燥時間と粘度の調整

塗料の揮発や乾燥時間を調整でき、塗装における作業性が向上することができます。
また、塗料の粘度を調整することで表面のムラを抑え、仕上りを良くします。
③金属建材や塗膜表面などの脱脂
脱脂力が高いシンナーで建材表面を拭くことにより、表面に加工された油分を溶かし除去することができます。
工場で製造された金属建材は、錆を防ぐために油分などで塗膜表面に加工している場合があります。その油分が残っている状態で塗装を行うと、下地(建材)と塗料の付着を妨げ、密着性に悪影響を及ぼす可能性があります。
④塗料の除去

塗装作業中に溶剤塗料が垂れた・汚れた場合、水で落とすことはできません。シンナーを使って溶剤塗料を除去します。
⑤塗装道具の洗浄
溶剤塗装作業後、刷毛(ハケ)やスプレーガンなどの塗装道具を洗浄するのにもシンナーを使用します。溶解力が高いシンナーを使用することで、より効果的に洗浄できます。
2.シンナーの健康被害

シンナーは第四類危険物という区分になっており、厚生労働省では実際に施工中に有機溶剤で中毒を起こした事例を確認できます。
化学物質による災害発生事例について|厚生労働省
2-1.シンナーで起きうる症状
シンナーの有害成分を吸収した結果起きうる症状としては
・不整脈
・錯乱や昏睡
・嘔吐
・肺炎
・呼吸器系への刺激
・肺水腫
・肝障害
・血尿
などがあります。(シンナー – 日本中毒情報センターより一部要約)
有機溶剤による中毒症状は多岐にわたり、軽い不調から深刻な被害までさまざまな段階があります。
症状には個人差があるため、臭い対策だけでなく、健康被害にも注意しなければなりません。
2-2.小さな子どもや年配の方は特に注意

揮発したシンナーの有害成分は、人体に少量ずつ蓄積します。
代謝が低い小さい子どもや年配の方がいる家庭では特に注意が必要です。
また、妊娠している方も口や皮膚から胎児へ有害成分が届いてしまう可能性があります。
2-3.シンナーは触れただけでもリスクがある

シンナーの製品ラベル等に記載されている「危険有害性情報」にある通り、シンナーのような有機溶剤は、皮膚から有害成分が血中に入るため、皮膚刺激や臓器、呼吸器など全身に症状があらわれます。
塗装現場でも塗装を行う職人は、長時間の作業や暴露によって健康リスクに発展することもあるため、長袖・長ズボン・手袋・保護メガネなどの装備を必ず着用し、皮膚の露出をできる限り減らしています 。
そのため、シンナーを吸入しない対策だけでなく、塗装中の建物に近づく際は半袖・短パンを避けるなど、直接肌に臭い成分が触れない工夫も大切です。
特に暑さで血行が良くなると体内に吸収されやすいため、施工期間は服装にも気をつけたほうがより良いでしょう。
3.シンナー被害への対策法

状況次第で深刻な健康被害を与えるシンナーですが、きちんとした対策を行うことで、ある程度その危険性や不快感を軽減することができます。
本章では、有効的な対策法と注意点を紹介します。
3-1.水性塗料を使用する

シンナーを含んでいない、または少ない塗料を選ぶことで安全に施工できます。
シンナーが少ない塗料としては、水を溶媒とする「水性塗料」があります。水で塗料を薄めるため、揮発成分が少なく安全性が高いという特徴があります。
加えてより安全な塗料を選びたい場合はホルムアルデヒド の放散速度量によるFスターの等級分けを参考にすると良いでしょう。F☆☆☆☆(フォースター)が最も安全性が高いグレードとされており、 F☆☆☆☆を取得している塗料は安心して使うことができます。
3-2.臭いが強い期間を避ける
塗装工事の期間中、シンナーの臭いはずっと強いわけではなく「強い期間」と「弱い期間」があります。
| 工程 | 施工期間目安 | 臭気の強さ | 詳細 |
|---|---|---|---|
| 足場設置 | 1日 | ☆☆☆☆☆ | 職人が塗装を行う足場の設置です。 臭いはほぼありません。 |
| 高圧洗浄 養生 下地処理 | 2~4日 | ★☆☆☆☆ | 外壁の汚れなどを水で落とします。 洗浄だけなので臭いはほぼありません。 |
| 下塗り | 1日 | ★★★☆☆ | 下塗材という塗料を塗ります。 溶剤系の下塗材を使用する場合、臭いが発生し始めます。 |
| 中塗り | 1日 | ★★★★★ | 下塗りに上塗り(1回目)を塗り重ねます。塗料を最も使用する工程です。 そのため、臭いがきつくなりやすいです。 |
| 上塗り | 1日 | ★★★★☆ | 上塗り(1回目)に上塗り(2回目)を塗り重ねる工程です。 中塗りの次に臭いが強いです。 |
| 乾燥 | 1日 | ★★☆☆☆ | 塗料の乾燥に伴い、シンナーなどの成分が 揮発し、徐々に臭いが弱まります。 |
ピーク時を知っておくことで、中塗りや上塗り工程中の数日間は家を空ける、シンナーの成分が付かないように洗濯物をコインランドリーで洗濯・乾燥するなどの対策ができます。
また、塗装の時期、塗装する部位、その他状況によって臭気の強さを感じる時期は前後するため、臭いが何日続くか不安な方は、業者に工程表の提出を依頼し、臭いのピーク期間を事前に確認しておくことをお勧めします。
3-3.塗装を行う時期・季節に注意する
シンナーの臭いは「溶剤の成分が揮発する」ことで発生します。
つまり、乾燥が速く進む「晴れや風通しのいい日が多い時期」を選んで塗装作業を行うことで臭いが強い時間を短縮することができます。
逆に、「湿度の高い日や風のない日が多い時期」は、臭いがこもりやすいため、避けることが望ましいです。
そのため、塗装工事の時期にこだわりが無い場合は、塗装に適した季節に施工をしてもらえるように相談することをオススメします。
3-4.窓を開放し、扇風機などで換気を行う
施工後の乾燥期間などは、揮発による臭いが強く、窓を閉め切っていると淀んだ空気が身体に悪影響を及ぼします。
窓を開けたり、扇風機を使用したりすることで、室内や作業場所の空気を循環させ臭いを速やかに外に排出できます。風通しの良い環境を保つことで、臭いの持続時間を短縮することができます。
3-5.マスクを着用する
臭いのもとを抑える対策以外にも「身体に取り込まない」工夫も有効です。
具体的には専用のマスクの着用です。
この時、気を付けなければならないのは「防じんマスクでは効果が薄い」点です。
防じんマスクは粉塵を防ぐためのもので「粒子の細かい成分などには効果が薄い」です。とはいえ、専用のマスクは金額が高いです。そこで、活性炭を使用した使い捨てのマスクがおすすめです。専用マスクほどではないものの一時的な対策としては有効です。
3-5.赤ちゃん、年配の方、ペットなどは臭いが届かない部屋で過ごす
シンナーの臭いが強い期間に外出が厳しい場合は、小さい子どもや、年配の方、ペットなどは体調に気を付けなければなりません。
対策法としては、塗装を行う箇所から遠い、隔離されたような臭いが届きにくい部屋で過ごすことで多少影響を抑えることができます。
4.近隣への配慮も忘れずに!
シンナーの臭いは近隣の住宅にも届いてしまいます。事前の知らせもなく塗装工事が始まると近隣トラブルにつながってしまうこともあります。
1:施工する1週間前には近隣に挨拶をしておく
2:自身の家の周囲8軒(両隣、向かい3軒、裏3軒)には挨拶しておく
といった点を意識すると良いでしょう。
こちらの記事で近隣の方への挨拶方法や気を付けるべきこと、挨拶時の業者側の対応に関してを詳しく紹介しています。
5.まとめ
今回は、「シンナーの臭いや危険性に不安を抱いている」方に向けて、
・シンナーの健康被害
・シンナー被害への対策法
・近隣世帯への配慮
を紹介しました。危険な印象があるシンナーも適切な対策法を知ることで安心して塗装工事を行うことができます。
本記事を参考にお住まいに合わせた塗装計画・対策を行ってください。