
中東情勢の急激な悪化により、シンナー類や弱溶剤塗料(溶剤系塗料・油性塗料)の供給が非常に不安定となっています。
これから塗装工事を行う施主様にとっては、使用する塗料やスケジュールに関わる問題のため、正確な情報を知りたいと考えている方も多いでしょう。
この記事では、シンナー不足・弱溶剤塗料不足が起きている原因から、代替策となる水性塗料への切り替え、その際の注意点まで分かりやすく解説します。
目次
シンナーとは?塗装工事に不可欠なシンナーの4つの役割

シンナーは、弱溶剤塗料(溶剤系塗料・油性塗料)を使った塗装工事の品質を根本から支える、縁の下の力持ちと言える存在です。もしシンナーがなければ、塗料の性能を最大限に引き出すことはできず、美しい仕上がりも期待できません。
シンナーは、主に4つの重要な役割を担っています。
役割①:弱溶剤塗料の粘度を調整し、作業性を向上させる
塗料は、缶に入ったそのままの状態(原液)では粘度が高く、ドロドロとしていて非常に塗りにくいものです。このままでは、刷毛やローラーの動きが重くなり、塗料が均一に伸びず、塗りムラの原因となってしまいます。
そこでシンナーを加えて適切に薄める(希釈する)ことで、職人が最も塗りやすい滑らかな状態に調整し、また乾燥時間を調整することができます。これにより、作業がスムーズに進むだけでなく、塗膜を均一な厚みで仕上げることができ、結果として美しい外観につながります。
役割②:塗料の密着性を高める「脱脂」
金属建材は錆の発生を防ぐために表面にワックスなどの油分が残留しています。この油分は、塗料がしっかりと屋根材・外壁材に食いつくのを妨げる大敵となり、塗料がすぐに剥がれてしまう原因となります。
シンナーには油分を溶かす性質があるため、塗装前の下地処理としてウエス(布)に染み込ませて塗装面を拭き上げる「脱脂」という作業に使われます。この一手間が塗料の密着性を格段に高め、長持ちする塗膜を作るために欠かせません。
役割③:付着してしまった弱溶剤塗料の「除去」
どんなに丁寧に養生(塗料が付かないようにビニールなどで覆うこと)をしても、作業中に誤って塗料が意図しない場所に付着してしまうことがあります。
そのような場合にシンナーを使うことで、硬化する前に素早く塗料を拭き取ることが可能です。軽微なはみ出しや飛び散りをきれいに除去し、工事全体の完成度を高めるためにも重要な役割を果たします。
役割④:刷毛やスプレーガンなど「道具の洗浄」
塗装工事で使用した刷毛やローラー、スプレーガンなどの道具には、当然ながら塗料が付着します。これを放置すると塗料が固まってしまい、道具が使えなくなってしまいます。
作業終了後にシンナーで道具を丁寧に洗浄することで、専門道具を繰り返し使用できる状態に保ちます。
このように、シンナーは、常に安定した品質の工事を提供するために欠かせない材料となります。
なぜシンナー不足?中東情勢が塗装工事に与える影響
2026年以降の中東情勢の緊迫化により、輸送ルートであるホルムズ海峡の航行が不安定化し、日本への原油・ナフサ輸入が困難となっています。
シンナーはナフサを加工して製造されるため、この影響をダイレクトに受けます。また、弱溶剤塗料も石油由来成分が主体であることから、塗装工事全般に深刻な打撃を与えています。
この結果、シンナーの原料となる有機溶剤も流通段階での目詰まりが起こっており、塗料メーカーは出荷制限や大幅な値上げを余儀なくされています。メーカーによっては75%もの価格改定に踏み切ったケースも報告されており、塗装業界全体への影響は広がり続けています。
※出典元:中東情勢を踏まえた石油及び関連製品等に関する対応(資源エネルギー庁・2026年)
※出典元:赤澤経済産業大臣の閣議後記者会見の概要 (METI/経済産業省)
シンナー不足の代替策|水性塗料への切り替えは可能?
多くの場合で、シンナーを必要としない水性塗料による塗装工事への切り替えは、シンナー不足に対する極めて有効な代替策となります。かつては「耐久性を重視するなら弱溶剤塗料」というイメージがありましたが、近年の技術革新は目覚ましく、水性塗料の性能は飛躍的に向上しています。
高グレードの製品であれば、弱溶剤塗料に匹敵する、あるいはそれを超えるほどの高い耐久性を持つ水性塗料も数多く登場しています。 そのため、これまで弱溶剤塗料での塗装が一般的だった箇所でも、水性塗料で十分に代替できるケースが増えています。
塗装業者が「屋根は弱溶剤塗料」と勧める理由と現状
紫外線や風雨に常に晒される屋根は、建物の中で最も過酷な環境です。そのため、従来は塗膜が緻密で密着性に優れる弱溶剤塗料が推奨されてきました。しかし、これも過去の話になりつつあります。
現在では、屋根専用に開発された高耐久な水性塗料も各メーカーから販売されています。これらの製品は、厳しい環境下でも長期間にわたり屋根を保護する性能を備えており、選択肢は弱溶剤塗料だけに限られません。実際、屋根にも水性塗料を標準プランとしている塗装店も多く存在します。
臭いが少なく環境にも優しい水性塗料のメリット
水性塗料の大きなメリットは、シンナー特有の刺激臭がほとんどないことです。 水性塗料は、主成分が水であり、VOC(揮発性有機化合物:空気中に放出される有害な化学物質)の排出量が少ないため、作業者や居住者、近隣住民の健康への影響を最小限に抑えられます。 小さなお子様やペットがいるご家庭、住宅が密集している地域での工事には特に適していると言えるでしょう。
水性塗料を選ぶ際の注意点(気温・湿度・天候)
一方で、水性塗料には注意すべき点もあります。それは、乾燥にかかる時間が気象条件に影響されやすいことです。水性塗料は水分が蒸発することで乾燥・硬化するため、気温5℃以下、または湿度85%以上の環境では施工できません。
このような条件下で無理に塗装すると、乾燥不良を起こし、塗膜の膨れや剥がれといった不具合の原因となります。そのため、特に寒冷地での工事、もしくは冬場や梅雨時期の工事では、弱溶剤塗料に比べて施工できる日数が限られる可能性があることを理解しておく必要があります。
水性塗料への切り替え提案を受けたとき、契約前に確認すべき2つのポイント

シンナー不足を背景に、塗装業者から当初の見積もりにあった弱溶剤塗料から水性塗料への切り替えを提案されるケースも出てきています。その提案を受け入れる際には、後々のトラブルを避けるため、契約前に必ず2つの重要事項を書面で確認してください。口頭での約束は避け、記録として残すことが肝心です。
この確認を怠ると、「思っていた性能と違った」「保証が適用されない」といった事態になりかねません。大切な住まいを守るために、慎重な対応が求められます。
提案された塗料のメーカー名・製品名・性能を確認する
まず、「水性塗料に切り替えます」という曖昧な説明で納得してはいけません。必ず、どのメーカーの何という製品名の塗料を使用するのかを具体的に確認しましょう。
製品名が分かれば、その塗料メーカーの公式サイトや製品カタログで、期待耐用年数や、遮熱・低汚染といった付加機能を自分で調べることができます。提案された塗料が、当初の見積もりと同等、またはそれ以上のグレード・性能を持っているかを見極めることが重要です。
アステックペイントの水性塗料ラインナップ例
当サイトの運営会社である塗料メーカー「アステックペイント」で取り扱いのある水性塗料を一例として上げさせていただきます。
■外壁用塗料
| 弱溶剤塗料 | 代替水性塗料(期待耐用年数) |
|---|---|
| 外壁用弱溶剤無機 | ・無機REVO1000(20~22年) ・無機REVO1000-IR (20~22年) ・超低汚染リファイン1000無機-IR(26~30年) ・無機ハイブリッドウォール(20年以上) |
| 外壁用弱溶剤フッ素 | ・フッ素REVO1000(16~20年) ・フッ素REVO1000-IR(16~20年) ・超低汚染リファイン1000MF-IR(20~24年) |
| 外壁用弱溶剤シリコン | ・スーパーラジカルシリコンGH(12~14年) ・スーパーラジカルシリコンZ(10~12年) ・シリコンREVO1000(13~16年) ・シリコンREVO1000-IR(13~16年) ・超低汚染リファイン1000Si-IR(15~18年) |
| 外壁用弱溶剤クリヤー | ・スーパーSDクリヤー無機Ⅱ(22年) |
■屋根用塗料
| 弱溶剤塗料 | 代替水性塗料(期待耐用年数) |
|---|---|
| 屋根用弱溶剤無機 | ・超低汚染リファイン500無機-IR(25~28年) |
| 屋根用弱溶剤シリコン | ・シリコンREVO500-IR(13~16年) ・超低汚染リファイン500Si-IR(15~18年) |
| 屋根用弱溶剤フッ素 | ・フッ素REVO500-IR(16~20年) ・超低汚染リファイン500MF-IR(20~24年) |
■ベランダ用FRP防水塗料
| 溶剤塗料 | 代替水性塗料(期待耐用年数) |
|---|---|
| FRP防水ベランダ用トップコート工法 | ・水性リガードトップワンSi(5~8年) |
工事の保証内容に変更がないか書面で確認する
塗料の種類を変更することで、工事の保証内容が変わってしまう可能性があります。特に、保証期間や保証の対象となる不具合に変更がないかを契約書や保証書で明確に確認してください。
「塗料が変わっても保証は同じです」という口約束だけではなく、保証内容が明記された書面にきちんと目を通し、納得した上で契約することが、万が一の不具合発生時にご自身を守ることに繋がります。
よくあるご質問
水性塗料は弱溶剤塗料より性能の面で劣りますか?
現在では、必ずしもそうとは言えません。かつては「耐久性なら弱溶剤塗料」という認識が一般的でしたが、近年の技術革新により水性塗料の性能は飛躍的に向上しています。高グレードの製品では弱溶剤塗料に匹敵する、あるいはそれを超える耐久性を持つものも多く登場しており、屋根など過酷な環境向けの専用製品も各メーカーから販売されています。
ただし、製品ごとに性能差がありますので、塗料のメーカー名・製品名を確認し、期待耐用年数や付加機能を比較することが大切です。
弱溶剤塗料をシンナーで希釈・粘度調整せずに塗装工事することはできますか?
製品によっては可能です。弱溶剤塗料の多くは、メーカー指定の希釈率の表記があり、シンナーで薄めずに「無希釈」で塗装できる弱溶剤塗料も存在します。
ただし、無希釈では塗料の粘度が高くなるため、ハケやローラー跡が残ったり、膜厚ムラが生じたりしやすくなります。特に美観が重視される箇所や、夏場に下地が高温になる条件下では仕上がりへの影響が出やすいため、注意が必要です。
なお、シンナーは粘度調整以外にも、塗装前の脱脂処理や道具の洗浄にも使用するため、シンナーが全く不要になるわけではありません。現在のシンナー不足の状況や工事箇所・季節・求める仕上がりを踏まえ、無希釈での工事が可能な弱溶剤塗料とするか、水性塗料に切り替えるかを施工業者と相談されることをおすすめします。
水性塗料も供給が不安定となる可能性はありますか?
水性塗料の主成分は水であり、有機溶剤を主体とする弱溶剤塗料と比べて、中東情勢による原油・ナフサ不足の影響は限定的です。そのため、現時点では水性塗料の供給は安定しています。ただし、水性塗料を構成する「樹脂」は石油由来であり、情勢の長期化・深刻化によっては、影響を受ける可能性があります。
シンナーや弱溶剤塗料の供給が安定するまで、塗装工事を延期した方が良い場合はありますか?
現在のご自宅の劣化状況を見て判断することが重要です。
外壁や屋根の塗膜の劣化が進んでいる場合、工事を先送りにすることで雨漏りや建材の腐食といった深刻なダメージにつながるリスクがあります。中東情勢がいつ安定するかの見通しも不透明なため、「安定するまで待つ」という判断には注意が必要です。
性能が向上した水性塗料への切り替えという有効な代替策がある今、延期よりも早めに専門家に診断を依頼し、最適な工事計画を立てることをおすすめします。
まとめ:シンナー不足を理解し賢く塗装工事を進めるために
この記事では、塗装工事におけるシンナー不足の原因と、その代替策について解説しました。
最後に、重要なポイントを振り返ります。
シンナー不足の主な原因は、原油価格の高騰と中東情勢の不安定化にあります。 この状況への有効な対策として、性能が向上した水性塗料への切り替えが挙げられます。 水性塗料は臭いが少なく環境に優しいメリットがある一方で、気温や湿度といった施工条件が弱溶剤塗料より厳しくなる点には注意が必要です。
もし業者から水性塗料への切り替えを提案された場合は、使用する塗料の製品名と性能、そして保証内容に変更がないかを必ず書面で確認することが重要です。
施工業者とよく相談をしながら最適な選択を行えるよう、この記事が参考となれば幸いです。